社会保障制度は4つの制度に分かれている

社会保障制度を構成する各制度の特徴

社会保険

・強制加入

社会保険は、国民が病気、けが、出産、死亡、老齢、障害、失業など、生活上のいろいろな困難をもたらす事故(保険事故)に遭遇したとき一定の給付が行われます。その財源は、月々、あるいは年に何回かに分けて加入者が支払う保険料がその大部分を占めます。社会保険に「社会」という名前がつく理由は、加入を拒否することができない強制保険であることと、公費負担があることです。民間の保険は加入したい人だけが加入する任意保険だが、社会保険でそのような自由を許すと、保険料負担をいやがる人は加入しなくなり、社会保障としての目的が果たせなくなります。低所得者や無職者には保険料の免除や減額を行うために、その分を分費で負担する仕組みがとられているものもあります。ただし、国によっては公費負担のない社会保障制度を運営しているところがあるため、公費負担は社会保険の必要条件ではないとする意見があります。

・社会保険の種類

社会保険はさらに細かく、5種類に分かれています。

①医療保険

医療保険は、病気やけがをした場合の医療費の保障と、そのために仕事を休んで所得が減少したり中断した場合の傷病手当金の給付が行われます。

②年金保険

年金保険は、老齢になった時、身体障害等の障害の認定を受けた時、および生計中心者の遺族となった時に金銭が給付されます。20歳以上の全員が国民年金制度の加入者となるが、会社員等の被用者はそれに加えて厚生年金保険にも加入します。

③介護保険

介護保険は、介護が必要と認定された者が介護サービスを利用したときにその費用を保障してくれます。医療保険も介護保険も保険料負担以外に、利用時には費用の一定割合を負担します。

④雇用保険

雇用保険は、1947年制定の失業保険が前身です。求職中の手当支給だけでなく雇用安定事業や能力開発事業など雇用・就業の安定や職業訓練の事業も行うので74年の改正により雇用保険法に変わりました。

⑤労働者災害補償保険

労働者災害補償保険は労働者が、業務上または通勤途上の事故に遭った時、それによる医療費負担や所得減少分を補償します。業務中に生じた事故であるため、雇い主が従業員に償いをするという意味です。この制度で保険料を負担するのは事業主であり、従業員は負担しません。

公的扶助

資産や所得、活用できる他法・他施策、扶養義務者による扶養の可否などを調べる資力調査を行い、最低生活費を下回ることが証明されたとき、足りない分を税金を財源として支給し、最低生活保障をするのが公的扶助です。公的扶助はそのような特徴をもった制度の総称として用いられる言葉であり、日本の制度では生活保護法がこれに相当します。

社会保険

貧困になるのを未然に防ぐのが社会保険の機能であり、そのため社会保険は防貧機能をもつといわれます。医療保険・年金保険・介護保険・雇用保険・労災保険等のことであり、リスクが伴った場合に、一定の給付により人々の生活を保障する仕組みのことをいいます。この社会保険に国民が入ることを法律で義務づけられており、相互扶助という理念に基づき、助け合うための制度です。また、財源の一部は税でまかなわれています。

社会福祉(狭義)

児童、障害者、高齢者等に対して人的なサービス、すなわち保育士、社会福祉士、精神保健福祉士などの専門職者によるサービスを提供したり、地域社会での共生のための協力体制をつくりだす組織活動を推進したりするのが社会福祉制度です。

たとえば、障害者は、障害年金を受給していて、月々何万円かの給付があったとしても、障害のない人に比べると生活上の不便が多く、自立支援のための介護や援護等の具体的な支援が必要になります。家庭で暮らすことができないくらい重い障害の人には、生活場所となる施設を準備されます。保護された環境の中で自立に向けた支援を行うサービスが必要です。そうした支援は、物の提供や専門職者等による人的役務サービスによって行われますが、そうした有形無形の支援は現物給付と呼ばれています。

この分野には、児童福祉法、身体障害者福祉法、知的障害者福祉法、老人福祉法、母子及び父子並びに寡婦福祉法、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)など多くの法律があります。その他には、社会保険制度でカバーされない部分を補充する現金給付も社会福祉に位置づけられています。たとえば、20歳未満の障害者は障害年金の受給資格がありません。これを補うための特別児童扶養手当は、現金給付の制度として社会福祉に位置づけられています。現物給付・現金給付どちらの場合も財源が必要になりますが、それらは社会保険の財源ではなく、国や地方自治体の公費が支出され、さらには共同募金も活用されるなど、公私の財源が用いられます。また、行政機関だけでなく社会福祉法人やNPO法人などの民間機関のほか、地域住民によるボランティアなど多様な主体によって進められる特徴をもっています。

公衆衛生・医療

公衆衛生については、戦前の1937年に制定された保健所法に基づいて全国に保健所が設置されていたが、戦後の47年に全面的に改正されました。保健所が健康相談、保健指導のほか、医事、薬事、食品衛生、環境衛生などに関する行政機能をあわせもつ公衆衛生の第一線機関として強化され、国、都道府県を通じて衛生行政組織と制度の強化が図られました。感染症対策から生活習慣病対策へとの課題の変化を受けて、市町村を中心とする地域保健体制を構築するため、94年に地域保健法に改正されました。医療については、無医村問題に象徴されるように、保険あって医療なしという事態を解消するためには、地域において医療施設や従事者などの医療提供体制を確保する方策が不可欠です。医療法において、診療所・助産所の開設・管理・整備の方法などが定められ、医師等の各資格のせきむや職能などは、医師法等の各医療資格を規定する法律において定められました。

社会保障制度全体の課題

わが国の財政構造

わが国の財政(単年度の一般会計)は、その歳入の約3分の1を公債金(借金)に頼っており、歳出の約4分の1を国債費(借金の返済)にあてています。90年代以降は歳出が税収などを上回る財政赤字の状況が続き、普通国債残高(累積借金額)は2020年度末で約964兆円の見込まれています。

最初の一般会計の歳出の内訳をみると、最も多い費目は社会保障費用となっており、国債費を除いた歳出のうち半分以上を占めています。また

ここ20年弱の間の推移をみても、ほかの費目は抑制されているにもかかわらず社会保障費は突出した伸び示しています。そのため、財政の健全化(改善)に向けては、社会保障費用の見直しが最大のポイントとなります。

<普通国債残高の累計>

引用図:財務省:日本の財政関係資料より

社会保障費用の内訳と将来推計

この社会保障の費用(税・一般会計による負担)は、年金・医療(医療保険)・介護(介護保険)の主要3分野で大半を占めています。

費用の内訳は年金・医療・介護の順で多くなっているものの、今後の伸びの推計では介護が突出して大きくなっています。その伸びは、今後の経済政策が順調に推移すると仮定した際の経済成長(GDP〈国内総生産〉の伸び)を超えると予測されています。

介護保険の費用

わが国の逼迫した財政状況のなかで最も多く財源が使われているのが社会保障分野であり、その社会保障分野で今後の増加が大きくなると見込まれているのが介護保険の財政負担ということになります。

このため政府が財政健全化を検討する際には真っ先に介護保険の費用の伸びが矢面に立たされることとなり、度重なる制度改正に至っております。

まとめ

社会保障制度とは、社会保険、公的扶助、社会福祉、公衆衛生・医療の4つの制度に分かれています。社会保障の費用(税・一般会計による負担)は、年金・医療(医療保険)・介護(介護保険)の主要3分野で大半を占めています。現在の社会保障制度は、すべての国民の生活に不可欠なものとして取り組まれ、それなくして国民の生活が円滑に営まれ得ない体制となっています。