終活準備のひとつとして、遺言書を準備する方が多いですよね。遺言書とは財産をどのように分けたいか意思を示すもの。しかし内容に不備があると、無効と判断されることがあります。

遺言に法的な効力を持たせるには、民法で定められた方式で「遺言書」を作成しなければなりません。子供や孫たちが相続トラブルに発展しないために、遺言書の作成方法を知っておきましょう。

この記事では遺言書の効力や種類、書き方、そして保管方法をご紹介します。

遺言とは

一般的に、遺言とは故人が自らの死後のために残した言葉や文章を指します。

しかし、民法における遺言書は「死後の法律関係を定めるための最終意思を記した書類」で、相続に対し法的な効力を持ちます。遺言の解釈の混乱を避ける目的で、遺言書は民法で方式が定められています。

遺言と遺言書の違い

一般的な遺言と法的な遺言書の違いは、以下の表をご覧ください。法的な効力を必要としない場合は、エンディングノートに遺言を残してもいいかもしれません。書式が決まっていないので、気軽に自分の思いを残すことができます。

ただ、相続を遺族に任せてしまうと遺族内の不和の要因になる可能性があるので注意しましょう。

遺言遺言書
形式=自由 
・自筆、代筆、音声映像 
・エンディングノートも遺言に含まれる
=指定あり 
・自筆または役場での作成 
・日付、押印、署名が必要
内容=自由 
・家族へのメッセージ 
・資産について 
・延命治療、葬儀など
=指定あり 
・遺言書の執行者の指定 
・相続分の指定 
・相続人の追加、排除など
効力=法的な効力が無い 
・遺族や親族への「お願い」
=法的な効力がある 
・遺族や親族に「指定」ができる
民法上の遺言書は、相続人や遺産の分割方法などを指定できます。

遺言書の効力一覧

遺言書は法的な効力がありますが、効力が発揮できる範囲には限りがあります。以下の表では、遺言書が持てる代表的な7つの効力をご説明します。ぜひ参考にしてください。

効力詳細
①相続分の指定各相続人への遺産の配分額を遺言者が指定できます。
②相続人の廃除
遺言者が推定相続人に虐待や侮辱されていたなど、民法に定められている廃除事由に該当する場合、その人物を相続人から廃除できます。
③財産の遺贈
相続人ではない第三者や団体に対し、財産を遺贈できます。
④遺産分割方法の指定
遺産分割の方法を指定できます。また、その指定を第三者への委託することも可能です。
⑤内縁関係の認知
事実婚などで内縁関係にある人物や、婚姻関係のない女性との間の子どもを相続人に加えられます。
⑥後見人の指定
相続人が未成年で親権者がいなくなる場合、第三者を後見人と指定し、未成年者の財産の管理などをお願いできます。
⑦遺言執行者の指定
遺産相続の手続きを行う遺言執行者を指定したり、第三者に指定を委任できます。

遺言書の4つの種類と書き方

法律的に効力を持つ遺言書には、4つの方式があります。

この項目では、遺言書の方式とそれぞれのメリット/デメリットをご紹介します。

遺言書の種類

以下の項目では、それぞれの遺言書のメリットとデメリット、書き方を詳しく説明していきます。

自筆証書遺言

       種類ポイント
①普通方式筆証書遺言書=全て自筆で記入する遺言書
〈メリット〉 
・簡単に制作できる 
・内容を秘密にできる

〈デメリット〉 
・検認手続きが必要 
・無効になりやすい 
・紛失、改ざんの可能性がある
②普通方式公正証書遺言書=公証役場で公証人と作成する遺言書
〈メリット〉 
・無効になりにくい 
・紛失、改ざんの心配がない

〈デメリット〉 
・費用がかかる 
・証人が必要
③普通方式秘密証書遺言書       =自筆で記入した後、公証役場で遺言書を作成した記録を残す遺言書                                      〈メリット〉 
・内容を秘密にできる 
・遺言書の存在を証明できる

〈デメリト〉 
・検認手続きが必要 
・無効になりやすい 
・紛失する可能性がある 
・証人が必要
特別方式・一般危急時遺言 ・難船危急時遺言 ・一般隔絶地遺言 ・船舶隔絶地遺言=他者と隔離されている場合や死亡の危険が迫っている場合、
特別方式で遺言書の制作が可能

自筆証書遺言とは、名の通り自筆によって制作する遺言書です。書き方を守れば、いつでも法的に効力のある遺言書を作成できます。しかし無効になるリスクが高いため、作成・保管に注意が必要です。

【自筆証書遺言のメリット/デメリット】

メリットデメリット
・簡単に制作できる 
・書き直しや修正が自由にできる 
・手続きがなく費用がかからない
・不備があり無効になる可能性が高い 
・家庭裁判所での「検認」手続きが面倒 
・紛失、改ざんの恐れがある

※検認とは、遺族が遺言書を開封する前に家庭裁判所で遺言の存在を確認してもらう手続きです。検認をせず遺言書を開封してしまうと、5万円以下の罰則があるため注意が必要です。

【自筆証書遺言書の書き方】

  • 全文、自筆で記載する(PCや代筆での作成は無効)
  • 署名と押印を必ず行う(認印や捺印でも可能)
  • 遺言書の作成年月日を記載する

自筆証書遺言書は、遺言書のなかで一番手軽に作成できる方法です。しかし、不備があったり、そもそも遺族に遺言書が見つけてもらえなかったりするケースも。

自筆証書遺言書は、「遺言書の存在を生前に知られたくない」という場合に有効ですが、さまざまなリスクを考える必要があります。

公正証書遺言書

公正証書遺言は、遺言者が公証役場の公証人に遺言内容を伝え、それに基づいて公証人が遺言書を作成する方法です。手間や費用はかかりますが、無効になる可能性が低いメリットがあります。

【公正証書遺言書のメリット/デメリット】

メリットデメリット
 ・無効になりにくい
 ・正確に記載できる
 ・検認が必要ない
 ・改ざんされる心配がない
・作成に時間、費用がかかる 
・公証人とは別に、証人2名の立会いが必要
・遺言書の存在や内容を秘密にできない

【制作の上で注意したいポイント】

  • 証人の条件

  ・20歳以上

  ・配偶者や親族以外

  ・遺言者から財産の分与を受けていない、また受ける予定もない人

  ・遺言書の内容を確認できる人

  • 必要書類(相続人以外に遺贈したい場合や不動産を所持している場合は別途必要書類あり)

  ・印鑑証明書

  ・戸籍謄本

公正証書遺言は、証人を用意する手間や公証役場に制作を依頼する費用がかかります。そのかわり、書類不備や紛失する心配がないので、他の方法より確実に効力を発揮できます。「確実に遺言内容を実現したい」という方におすすめです。

秘密証書遺言書

秘密証書遺言書は、自筆で書いた遺言書を公正役場に持っていく方法です。遺言内容を秘密にしたまま、本人の遺言書であると公証人に証明してもらえます。しかし、不備のチェックや遺言書の保管は公証役場で行ってもらえないため、紛失や書類不備の可能性があります。また、公証証書遺言書と違って検認手続きも必要になるため、利用する人は多くありません。

【秘密証書遺言書のメリット/デメリット】

メリットデメリット
・遺言書が本人のものであると証明できる                     
・遺言の内容を秘密にできる
・公証人も遺言内容をチェックできない為、不備が残る可能性がある                             ・家庭裁判所での検認手続きが必要 
・手数料で11,000円かかる 
・公証人とは別に、証人が2名必要

【秘密証書遺言書の書き方】

  • 全文、自筆で記載する(PCや代筆での作成は無効になる)
  • 署名と押印を必ず行う(認印や捺印でも可能)
  • 遺言書を作成した日付を記載する
  • 証人の条件(20歳以上/親族以外/財産の分与を受けていないまたは受ける予定がない)

特別方式の遺言書

病気や怪我で死亡する危険が迫っている場合や、感染症、航海中で他者と接触ができない場合などに、特別方式とよばれる遺言書を作成できます。

種類内容
一般危急時遺言=病気や怪我で死亡する危険が迫っている場合に作成できる遺言書 ・3名以上の証人が必要 ・証人による代筆も可能
難船危急時遺言=船や飛行機に搭乗中、死亡する危険がある場合に作成できる遺言書 ・2名以上の証人が必要 ・証人による代筆も可能
一般隔絶地遺言=伝染病などで他者との接触を絶たれている場合に作成できる遺言書 ・証人と警察官が1名ずつ必要 ・代筆不可
船舶隔絶地遺言=航海で長期間陸地から離れている場合に作成できる遺言書 ・2名以上の証人と1名以上の乗員の立会が必要 ・代筆不可

遺言書の保管方法

自筆証書遺言書と秘密証書遺言書を作成した場合、遺言書は基本的に自分で保管する必要があります。

以下の項目では、遺言書の保管に適した場所をご紹介します。

法務省

2020年7月から、遺言書を法務省に預けられるようになりました。本人が遺言書を法務省に届け保管してもらいます。しかし、遺言書の中身を法務省は確認できないので、書類不備が残る可能性があります。また、死後の手続きのため、遺言書の存在を家族に伝えなければいけません。

一方で、遺言書を法務省に預けると「検認」手続きが免除されるというメリットがあります。紛失や改ざんされる心配もないので、おすすめな保管方法です。

詳しくは法務省の該当ページをご覧ください。

(参考:法務省HP 法務局における自筆証書遺言書保管制度について

他にもよく保管される場所として貸金庫がありますが、故人の貸金庫を開けるには相続人全員の許可が必要なので、遺言書が発見されるまでに時間がかかってしまいます。

また、机の引き出しや仏壇裏なども候補としてあげられますが、紛失や改ざんの心配があります。

相続人に遺言書の存在を明かしたくない事情が特にない場合は、法務省に預ける方法が得策です。

遺言書が無効になるケース

遺言書が無効になるケースについてまとめておきます。十分に注意して制作しましょう。

2人以上で共同作成した

遺言書は2人以上で共同で作成できません。夫婦や親子であっても無効になるので、気をつけましょう。ただし、同じ封筒に入れるのは問題ありません。

署名や押印・日付の記載がない

署名、押印、日付のうち一つでも記載されていない場合、遺言書は効力を失うので注意が必要です。

自筆で記入していない

自筆証書遺言書や秘密証書遺言書の場合、全文を自筆で記入する必要があります。代筆やPCでの作成、音声や映像での遺言も効力を持ちません。

遺言能力がないと判断されたとき

遺言者に「遺言能力がない」とされたとき、遺言書は無効になります。遺言能力とは、自分の遺言の意味を理解できる意思能力です。たとえば、遺言者が重度の認知症だった場合に無効になるケースがあります。方式にそって作成された遺言書を無効にするには、裁判手続きが必要です。

まとめ

法的な効力を持った遺言書を作成するには、手間と時間がかかります。しかし、遺言書を作成すれば、自分の死後も資産の活用や相続人の負担を減らすことができます。ぜひ一度、遺言書の内容を検討してみてください。