障害年金の全体構造
障害年金は、病気やケガで障害を負った人(若年者も含む)に対して給付されます。
老齢年金より給付の条件が緩い面がある点が大きな特徴です。障害基礎年金は、障害等級1級か2級に該当する状態にないと受給できないのに対し、障害厚生年金は1級・2級に加え3級や、一時金である障害手当金の制度があります。
そして障害等級1級・2級に該当する場合は障害基礎年金が支給され、さらに厚生年金保険に加入していた場合は、障害厚生年金が上乗せして支給されます。
そのため、基礎年金が受給できなければ、障害等級1級、2級に該当せず、障害基礎年金を受給できない場合でも、厚生年金の加入者であれば3級の障害厚生年金や障害手当金を受給できる可能性があります。障害を負う前に国民年金か厚生年金保険のいずれかに加入しているかで、受け取ることのできる障害年金の内容が全く異なるわけです。
なお、障害基礎年金と障害厚生年金の障害等級(1級または2級)は、同じ基準となっています。障害年金は、そもそも同一の障害に対する保障であるため、実際に認定がなされた場合に該当する等級も必ず一致します。また、以前は公務員や私立学校における教員などを対象とした共済年金制度における障害共済年金もありましたが、共済年金制度そのものが厚生年金制度と一元化されたため、平成27年10月以降に障害共済年金の請求を行った場合は、障害厚生年金の支給がなされることになっています。
先天性、後天性障害でどんな年金を受けれるのか
先天性の障害とは、生まれた時点で発生している障害のことです。当然ながら保険料の納付は行っていない状態で障害を抱えることになるため、年金を請求することを躊躇するケースがありますが、このような場合でも障害基礎年金の請求を行うことが可能です。2級以上の障害等級に該当した場合は20歳の誕生日を迎えた時点で年金を受け取ることができます。
この制度を二十歳前傷病の障害年金といいます。ただし、この制度で適用されるのは障害基礎年金のみであり、障害厚生年金を受給することが可能になるのは、初診日が20歳以降であり、厚生年金に加入する必要がある点に注意しなければなりません。生まれつきの障害であるために初診日の証明が取れない場合などは、「第三者証明」を活用することで未成年時の初診日証明に代わるものとすることができます。
第三者証明とは、20歳前より患っている障害にまつわ、り初診日を確認することができない場合に、初診日と想定されるその当時の障害状態を把握している複数人の第三者に、障害状態の証明をしてもらうことです。
第三者とは、病院の関係者や介護施設における施設長、勤務先の事業主や近所の人などが挙げられます。なお、障害年金の請求者本人やその生計同一者(三等親以内の者)は第三者にあたらないため、第三者証明を行うことはできません。
ただし、先天性の知的障害を抱える人の場合、初診日を証明する必要はありません。
また、後天性の障害の場合も、年齢に応じて請求ができる年金の内容が異なります。20歳になるまでの間に初診日が該当する障害に対しては、「二十歳前傷病の障害年金」が適用され、傷害等級に該当すれば障害基礎年金の請求が可能です。そして20歳を超えた際に初診日があり、厚生年金に加入している場合は、要件に該当すれば障害厚生年金を受け取ることができます。
なお、二十歳前傷病の障害年金には所得制限が設けられています。一定の所得を超えた場合、傷害等級の上下にかかわらず年金が半額、または全額停止される場合があります。具体的な所得額は、2人世帯の家族で所得の金額が3,604,000円を超える場合は年金の半額が停止され、4,621,000円を超過する場合は年金が全額停止されます。
障害年金の病気やケガとはどんな程度なのか
障害の程度は、医療機関で診断された病名にかかわらず、その人が負っている「障害の内容」に応じて支給が決定されます。
具体的な傷病とは、精神疾患・肉体的な疾患を問いません。また先天性・後天性ともに問いません。先天性としては、脳性麻痺や染色体疾患ダウン症候群、フェルニケトン尿症、先天性風疹症候群、発達障害などがあげられます。後天性の障害には、精神疾患である総合失調症や、肉体的疾患である高次脳機能障害や脳梗塞や脳出血の後遺症、ガンなど、その種類は幅広いものがあります。
ただし、精神疾患に該当する不安障害・パニック障害・人格障害などの「神経症」は障害年金の対象外とされているため、注意が必要です。
障害等級表は何に定められているのか
障害等級を認定する基準には、政令で定められた「障害等級表」と客観指標である「障害認定基準」の2種類があります。なお、障害等級表の等級は、障害のある人が申請することで入手することが可能な障害手帳に記載されている等級とは全く別ものであるため、注意が必要です。逆に障害手帳の等級が1級であっても必ずしも年金を受け取れるわけではありません。
障害基礎年金は傷害等級1~2級、障害厚生年金は傷害等級1~3級に該当した場合に支給されます。そのため、傷害等級1級・2級に該当する障害の状態は国民年金法施行令別表に、3急に該当する障害の状態は厚生年金保険法施行令別表第1に、それぞれ規定されています。また、障害手当金の障害の状態については、厚生年金保険法施行令別表第2に規定されています。
おおよその程度としては、1級に該当した場合は、ほぼ寝たきりで日常生活に支障をきたしている場合とされています。一方、2級の場合は、何とか日常生活をこなす程度であり、外出が厳しい状態です。また、3級の場合は、就労することが難しい、もしくは就労内容が制限されてしまう状態のことをいいます。
世帯収入や本人の収入によって上限はあるのか
障害年金は、年齢・傷害等級・保険料納付の3つの要件を満たしていれば受給することが可能な年金です。世帯単価である程度の収入がある場合でも関係なく受け取ることができます。したがって、就労する親や配偶者、子どもと同居しており、たとえその世帯全体が高収入の場合でも、障害年金の支給が可能です。
ただし、生まれ持った障害である場合や、20歳未満で障害を負った場合は「二十歳前傷病の障害年金」に該当するためその本人による所得に応じて年金の支給が制限されます。あくまでも本人の収入額であり、家族のものではないことに注意が必要です。たとえば、先天性の場合などで本人に収入がない場合は、傷害等級に応じて満額の障害年金を20歳以降に受け取ることができます。
障害基礎年金
どんなときに障害基礎年金を受給できるのか
障害基礎年金は、原則として次の3つの要件をすべて満たしている場合に支給されます。
①病気やケガを負い、医療機関で診療を最初に受けた日である(初診日)に国民年金に加入していること。または、過去に国民年金の加入者であった60歳から65歳の人で、日本国内に在住していること
②初診日から1年6か月を経過した日、または治癒した日(障害認定日)に傷害等級が1級または2級に該当すること
③初診日の前日に保険料納付要件を満たしていること
なお、③の保険料納付要件とは、初診日の月の前々月までに国民年金の加入者であったときは、全加入期間のうち保険料の納付期間と免除期間が3分の2以上を占めることをいいます(65歳未満の時点で初診日を迎えた場合については、初診日が属する月の2か月前までの1年間に保険料未納期間がないことを意味します)。
注意点
障害基礎年金をもらえる人は、国民年金の加入者か老齢基礎年金をまだ受け取っていない60~65歳の人で、障害等級が1級か2級と認定され、さらに国民年金の保険料の滞納が3分の1未満ということになります。
障害年金制度に年齢制限が設けられているのは、ほかの年金と重複しないようにするためです。年金は、国民の生活保障のために支給されるものであるため、一人あたり1つの年金が支給されます。たとえば、65歳を迎えた場合、支給要件を満たす国民であればすべてが老齢年金の支給対象者となります。したがって、障害基礎年金には65歳未満という要件が存在するのです。
②の障害認定日において認定が必要な等級は、障害基礎年金の場合は傷害等級が1級または2級、障害厚生年金の場合は傷害等級1級または2級、3級が必要であることにも、それぞれ注意が必要です。傷害等級に該当する障害には、肉体的な障害に加え、精神的な障害も含まれます。
障害基礎年金の受給額
障害基礎年金は、加入期間の長短に関係なく障害の等級によって定額になっています。
支給額については一定期間ごとに見直しが行われており、令和2年度の基準からは、1級が977,125円、2級が780,100円です。それに加えて18歳未満の子(または一定の障害をもつ20歳未満の子)がいる場合は、子1人につき224,900円(3人目からは75,000円)が加算されます。
・障害基礎年金の金額 (2020年度の障害年金の金額)
・子の加算
いずれの場合も、障害認定日から障害に該当する限りは一生涯にわたり支給されます。
障害厚生年金
どんなときに障害厚生年金を受給できるのか
障害厚生年金は、厚生年金保険による生活保障年金です。支給要件については、障害基礎年金と同じ内容となっています。そして、障害厚生年金を受給するには下記の要件に該当する必要があります。
①厚生年金へ加入している期間中に初めて医師の診療を受けた初診日が該当していること
②傷害等級に該当する障害を抱えていること
③初診日前日の時点で、以下のいずれかの保険料納付要件を満たしていること
a,初診日のある月の2か月前までの公的年金加入期間のうち、3分の2以上の期間は保険料が納付または免除されていること
B,初診日に65歳未満の者でありあ、初診日のある月の2か月前までの1年間に保険料の未納期間が含まれないこと
注意点
障害厚生年金は、厚生年金の加入者を対象とした年金であるため、先天性の障害を抱える場合は原則として支給の対象にはなりません。
ただし、先天性の障害であっても、実際に詳しい障害が判明するのが年を重ねた時点になる場合があります。たとえば、先天性の股関節脱臼を抱えている場合でも、実際には成人になってから痛みなどで生活に支障をきたすケースなどが挙げられます。
この場合、実際に痛みを感じて医師の診療を受けた初診日の時点で厚生年金へ加入している事実があれば、たとえ痛みの原因が先天性の障害であっても障害厚生年金の請求をおこなうことができる可能性があります。
障害厚生年金の受給額
障害厚生年金は、1級障害の場合は老齢厚生年金の1.25倍、2級障害の場合は老齢厚生年金と同一の金額が支給されます。
障害の程度や収入に応じた金額が支給されるのが原則となるため、障害厚生年金の支給額は、その人の障害の程度や収入に応じて異なった金額になります。障害厚生年金の場合、障害基礎年金と異なり、子どもがいる場合の加算はありません。その代わり、1級、2級の場合は受給権が発生した当時、その者により、生計を維持していた65歳未満の配偶者がいる場合は加給年金額224,900円が加算されます。3級の場合は加給年金がありませんが、586,300円が最低保証額として定められています。
まとめ
障害基礎年金と障害厚生年金の2種類があり、障害の程度に応じて支給されるものです。障害基礎年金の場合は傷害等級が1級または2級、障害厚生年金の場合は傷害等級1級または2級、3級が必要であることにも、それぞれ注意が必要です。傷害等級に該当する障害には、肉体的な障害に加え、精神的な障害も含まれます。
障害年金って聞いたことはあるけど実は内容を理解していないので、本来受けられる方が受けられることを知らずに、受けていない場合も多くあります。また、知っていても、どのような手続きなのかわからずという方は、是非、理解しておきましょう。