改葬とはお墓を移すこと

「故郷にお墓があるが、お墓参りに行くのも遠くてたいへんなので、近くに移したい」などで、お墓を移す場合があります。このように、お墓を移転することを改葬といいます。

改葬に必要な手続き

改葬が必要になるケース

改葬が必要になるケースには、次のようなものがあります。

①実家を離れ、別の土地に定住しているために、なかなかお墓参りに行けないケース

②改宗などのために、檀家をやめるケース

③使用規則に従えない事業が出てきたために、墓地を変えるケース

④承継者がいないなどの理由で永代供養墓や承継者のいるお墓に移すケース

⑤すでに別のお墓に埋葬している特定の人の遺骨を移すケース

⑥区画整理などによる墓地の移転

とくに多いのは、①のケース。地方から都会に出てきて家族を持った人たちが、年老いた親を呼び寄せたり、自分自身も高齢化したためにお墓参りがままならず、郷里のお墓を家の近くに移したいというものです。また④は、承継者がいないケースのほか、一人っ子どうしの結婚で両家墓を建てることになったために改葬が必要になるケースなどで、これも増えています。

そのほか、遺骨を納骨堂に一時的に預けておき、お墓が建ったらそちらに移す、というケースがありますが、その場合にも改葬の手続きが必要になることがあります。

お墓を移転する場合、先祖代々のお墓の棹石を移すケースと新しく墓石を建てるケースがあります。墓地によっては、墓石の持ち込みができないこともありますので、改葬先の墓地をさがすときには、あらかじめ「改葬する」ということを伝えておくようにしましょう。

改葬を行う手順と手続き

改葬の手続きは、基本的に次のような手順で行います。

①改葬先の墓地を決め、必要な手続きをすませてお墓を購入する。

②現在の墓地のある市区町村役所で「改葬許可申請書」をもらい、それに、現在の墓地の管理者に、遺骨が埋蔵されているという「埋蔵証明」をしてもらう。

③現在の墓地のある市区町村役所の戸籍課、あるいは住民課に申請して、「改葬許可証」を発行してもらう。申請書・許可証は、遺骨1体につき1枚必要。改葬先の「永代使用料許可書」もしくは「受入証明書」の提出を求められることも。

④現在の墓地の管理者や石材店に、遺骨の引き取りや墓石の処理などについて相談し、依頼する。仏式のお墓であれば、菩提寺に閉眼供養を依頼する。

⑤遺骨を取り出す(閉眼供養を行う)

⑥現在のお墓をさら地にして戻す

⑦移転先の墓地の管理者に「改葬許可証」を提出し、新しいお墓に納骨する。新しくお墓を建てた場合は、開眼供養もあわせて行う。

自治体や地域によっては手続きや習慣の違いがありますので、事前によく確認しましょう。また、石材店に相談すると、その地域やケースに合ったアドバイスが受けられるでしょう。

手順をよく頭に入れておき、役所には必要書類の確認の電話を入れるなどして、むだな手間をなくすようにしましょう。現在の墓地と改葬先の墓地が離れている場合、書類が足りなかったりして二度手間になると大変です。

改葬許可申請に必要な書類

必要な書類や書類の形式は自治体によって異なります。届け出る市区町村役所に確認してそろえましょう。また、印鑑、発行手数料などが必要となります。

・埋葬(埋蔵)証明書

申請の遺骨が埋葬されている事実を証明するためのもの。既存墓地の管理者に発行してもらう。納骨堂の場合、納骨(収蔵)証明書などとなる。遺骨1体につき1枚必要だが、1枚に複数記入できる書式の場合もある。

必要事項を記入し、押印した改葬許可申請書に既存墓地管理者の署名、押印を受け、それを埋葬(埋蔵)証明とする場合もある。

・新しい墓地の墓地使用許可証(永代使用許可証)

新しい墓地の使用権を取得する際に発行される。

・受け入れ証明書

新しい墓地の管理者に、改葬したい旨を申し出て、発行を受ける。墓地使用許可証で代用できる市区町村もある。

・改葬許可申請書

既存墓地の市区町村役所で入手する。必要事項を記入し、押印する。遺骨1体につき1枚必要だが、1枚に複数記入できる書式の場合もある。

・死亡者の戸籍(除籍)謄本

死亡年月日を確認できるものとして必要な場合もある。遺骨ごとに必要。

・墓地使用者の承諾書

既存墓地の墓地使用者(墓地使用承継者)と改葬許可申請の申請人が異なるとき必要となる場合もある。

改葬するときの注意点

宗教・宗派を確かめて

改葬先の墓地を選ぶときに気をつけたいのは、宗教・宗派の確認です。将来は、改装する場合や、分家をして新しくお墓を建てる場合には、自分の家と同じ宗派の寺院の墓地に建てることが普通でした。しかし現在では、宗派にこだわらない人が増えたため、お墓を移すときにも、自宅からの距離や交通の便を基準に墓地を選ぶ傾向が強くなっています。

移転先の墓地が公営墓地なら問題ないのですが、「宗教・宗派不問」とうたっている民営墓地のなかには、「過去の宗教・宗派は不問」という意味で、改葬先の宗派に変えることが条件となっている墓地もあるようです。

改宗となると、戒名(法名)を変えたり、納骨法要やその後の供養も改葬先の寺院の宗派のやり方で行うことになります。

宗派を変えるときには、精神的な面だけでなく、手続きや費用の問題も考えておかなければなりません。

両家墓を建てるとき、双方の宗派が違う場合にも同様の問題が出てきますので、双方の菩提寺と相談をするなどの対処をすることが必要です。

菩提寺とはよく話し合う

現在のお墓が寺院境内墓地にある場合、改葬することで、菩提寺が変わることがあります。先に改葬手続きを進め、現在の墓地のある菩提寺には事後報告というような場合、改葬をなかなか許可してもらえないことがあります。改葬されれば、菩提寺にとっては大切な檀家を失うことになるのですから、事前に相談するなど、ていねいな対応が求められます。

もちろん、改葬するかどうかは墓地使用者の自由であり、菩提寺は、正当な理由なしに改葬を拒否することはできません。

しかし、菩提寺とは、単に墓地管理者と使用者という関係だけにとどまらず、法要やお盆、お彼岸の供養など、長いおつきあいがあったわけですから、余計なトラブルは避けたいもの。できれば早い段階で、相談するといいでしょう。改葬が必要になった事情なども、誠意をもって説明し、これまでのお世話になったことへの感謝の意を表し、理解を求めることが大切です。

移転先の墓地を、同じ宗派の寺院境内墓地にするなら、現在の菩提寺から紹介してもらうと良いでしょう。また、改葬先の墓地が公営墓地などの場合には、現在の菩提寺とのおつきあいを続ける、という方法もあります。大きな法要などは、現在の菩提寺にお願いし、足を運んでもらいます。

現在の墓地はさら地に戻して返還する

改葬が終わったら、現在のお墓はさら地に戻して、墓地管理者に返還しなければなりません。墓石はもちろん、外柵などの付属品や植木などもきれいに撤去する必要があります。

この費用は、もちろん墓地の使用者が負担します。

閉眼供養の終わった墓石の棹石は、無縁墓の棹石などを集めたところに合葬されることが多いようです。墓石の他の部分と一緒に粉砕し、供養した後にしかるべき処置が行われることもあります。

これらの作業は、改葬の手配を頼んだ石材店でやってくれます。墓地を返還しても、永代使用料は、原則として戻ってきません。

現在の墓石を使う場合

現在のお墓で使用していた棹石を、改葬先で再び使用することがあります。そのような場合には、しっかりした台石を新たにつくり、その上に設置するようにします。ただし棹石が古く、風化していたり、破損している場合は、使わないほうがいいでしょう。また、石は重量があるので、運賃なども高くつきます。

現在のお墓の棹石を使うかどうかは、これらの条件を考慮して決めると良いでしょう。現在の棹石を使う場合も、現在の墓地で閉眼供養を行い、改葬先では開眼供養を行います。

改葬に伴う宗教儀礼

閉眼供養とは?

仏式の場合、改葬には宗教儀礼が伴います。現在のお墓の墓石を撤去する前には、閉眼供養(「お魂抜き」ともいう)を行います。これは、新しくお墓を建てたときに行う「開眼供養」とは逆で、お墓から仏様の魂を抜いて、単なる石に戻す法要です。改葬では、移転先の墓地にお墓を建てるとき、現在の墓石の棹石を使うことがあります。この場合も、墓石を運ぶときにはモノとして扱うということで「お魂抜き」を行ってから運びます。新しいお墓では開眼供養を行います。

閉眼供養と遺骨の取り出し

閉眼供養はふつう、家族など身内だけで行います。僧侶にお経をあげてもらったあと、墓石を動かし、カロートから遺骨を取り出します。墓石を動かす作業は、石材店に依頼します。墓地によっては、管理者の立ち会いが必要です。

遺骨が骨壺に入っている場合はそのまま取り出せますが、お骨経袋などに納められていて、すでに土に還ってしまっている場合は、その土を茶碗1杯ほど取り出し、それを新しいお墓のカロートに納めます。移す遺骨が多い場合には、それぞれの遺骨から少しづつ集めてひとつにすることもあります。

なお、閉眼供養をしてもらった僧侶には「お布施」を包みます。改葬先では納骨法要を行います。

永代供養とは?

永代供養とは、菩提寺にお墓があっても、仏の供養をする人がいなくなってしまうとか、子どもや孫が仏の供養をしてくれるかどうかが不安なとき、また、海外で生活するなどのような理由で、菩提寺がかわって法要を営むことをいいます。

永代供養をお願いする場合には、菩提寺にお布施をおさめます。(永代供養料)その場合は奉書紙に包むか白封筒に入れ、「だれが、だれのために、いくらおさめるのか」を書いたものを添えて依頼します。

寺ではこれを台帳に記録して供養を行います。それぞれの事情に応じてどのような形にすればよいのか、菩提寺とよく相談して決めましょう。

なお、永代供養料は「1回の法要のお布施×年間の法要回数×契約年数」となるので、かなり高額になります。

いったん納骨した遺骨の一部を散骨することはできるの?

特別な手続きは不要。墓地の管理者に連絡し、遺骨を取り出します。すでに墓におさめてしまっている遺骨でも、取り出して散骨することはできます。この場合は改葬にはあたらないので、「改葬許可証」の申請などの手続きも必要ありません。

寺院や霊園など、墓の管理者に連絡をして、趣旨を告げ、遺骨の一部を入れる容器を用意し、石材店に遺骨を取り出す作業を依頼します。

散骨は、「法にふれるのでは」という懸念がありましたが、「節度を持って行う」のであれば、法にはふれない、という解釈をされています。実行する場合には、散骨場所や散骨方法などに細心の配慮が必要です。

まとめ

改葬とは、お墓のお引越しのことをいいます。改葬をするには手順や手続きを十分確認し、余裕をもって計画を立てましょう。また寺院墓地などの場合は菩提寺の了承を得ることが大切です。檀家が減ることになるため、理解を得ることが難しいこともあります。いずれもトラブルに発展することもあります。事情や理由をていねいに時間をかけて説明し、納得してもらうことが重要です。