地域包括ケアシステムってなんだろう?

体が衰えたり、病気になったりしても、住み慣れた地域で安心して最期まで暮らせるよう、自治体、医療従事者、介護従事者、住民らが力を合わせて一体的にサポートする体制をいいます。そのためのしくみを「地域包括ケアシステム」といいます

(画像引用:とやま地域包括ケアシステム http://toyama-chiikihoukatsu.net/about/

2025年問題への対応が焦点

「我が事・丸ごと」の地域づくりへ向けた改正

地域福祉が支え手側と受け手側に分かれるのではなく、あらゆる住民が役割を持ち、支えながら活躍できる「地域共生社会」を実現するためです。「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法案(以下 地域包括ケアシステム強化法)もそうした中で成立しました。住民が老いや障害を他人事ではなく「我が事」と捉え、関係機関が「縦割り」ではなく「丸ごと」支援していく地域をつくるのが、法改正の目的です。

地域包括ケアシステム強化法とは

<法律に盛り込まれたおもな内容>

  • 収入が一定以上ある高齢者が介護保険サービスを使う場合、利用者の自己負担割合を2割から3割に引き上げる。
  • 第2号被保険者のうち、収入の高い被用社保険の加入者に、より多くの介護保険料を求める「総額報酬」を導入する。
  • 自立支援に効果がある介護の研究を進め、介護予防や重度化防止に成果をあげた市区町村を財政的に支援する。
  • 入居者に虐待を行いなど、行政の指導に従わない悪質な有料老人ホームに自治体が事業停止命令を出せるようにする。未届け施設も対象に含む。
  • いわゆる療養病床のうち、廃止が決まっている介護療養病床の転換先として「介護医療院」を創設する。
  • 現在は別々に運営している介護施設と障害者施設を、一定の条件を満たせば一体化できるようにする。

介護報酬が上がり、利用者負担も増える

介護報酬の改定率は年々上がってきており、通所介護や訪問介護などで自立支援を行った事業者の報酬が加算されます。一方、利用負担も増えます。自己負担額2割の利用者の一部(単身世帯で年収340万円以上、夫婦世帯で年収463万円以上の利用者)は、2018年8月から自己負担が3割になりました。第2号被保険者の介護保険料は、令和2年より総報酬割が全面導入されました。従来は、各医療保険の加入者数に応じて保険料を決めていましたが、被用保険間では加入者の報酬の総額に応じて決める方式に変わり、収入の高い加入者の負担が増えることになります。

6年に一度の診療報酬・介護報酬同時改定とは

診察報酬は、医療行為や薬の対価として医療機関や薬局が受け取るお金、介護報酬は介護保険サービスの対価として事業者が受け取るお金です。原則として診療報酬は2年に一度、介護報酬は3年に一度改定されます。財源はおもに医療保険料・介護保険料と税金です。現状、国の予算の3分の1は社会保障費に充てられており、借金で賄っています。それでも診療報酬を上げたのは薬価を下げた見返りで、介護報酬を上げたのは人手不足に歯止めをかけたいからです。

地域包括ケアシステムの推進

2018年「介護医療院」が創設

介護医療院は、慢性期の療養(医療)と日常生活のお世話(介護)という複合的なニーズに対応するためにつくられた新たな介護保険施設です。介護医療院のタイプは、介護療養病床担当のⅠ型と転換型老健(介護療養型老人保健施設)相当のⅡ型に分かれます。基本報酬は、介護職員の配置などで3種類に分かれます。転換支援策としては、「移行定着支援加算」が2021年3月までの間、1年間に限って設けられますこれは一床についての加算ですから、仮に100床の介護療養病床が介護医療院に転換した場合、3400万円の報酬が入る計算になります。

2018年「共生型サービス」も創設

引用元:厚生労働省HP(地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律(概要))

障害福祉サービスを使っていた利用者が高齢者になった場合、原則として介護保険が優先されるため、介護保険事業所に移らなければなりませんでした。そうした不便さを解消するために、1つの事業所で障害者(児)と高齢者が同時に受けられる共生型サービスが創設されました。対象となるサービスは、訪問介護、通所介護、短期入所生活介護です。

共生型サービスの特徴は?

従来から、一部の地域では制度の要件を緩和し要介護高齢者と障害者(児)のデイサービスなどを同じ場所に・同じ担当者で実施していました。当初は、地域内にそれぞれの利用者が少ないため一緒に実施する方が効率的であることや、場所の確保が難しいという事情からのものでした。

しかし、実際にそうしたサービスを提供してみると、そこで認知症高齢者が知的障害児の世話をしたり、精神障害者が高齢者の介護を自発的にしたりするなど、利用者間で世代と障害種別を超えた相互交流が生まれ、サービス担当者も高齢者・障害者(児)の個々のニーズに対応した介護や支援のスキルが向上したといった効果が生じました。

こうした結果と、人材不足・場所不足の対策の両面の意味から、介護保険法・障害者総合支援法・児童福祉法が改正され、2018年から高齢者・障害者共通の「共生型サービス」が創設されました。

共生型サービスの実際

共生型サービスは、訪問介護、通所介護、短期入所生活介護の3種類に設けられます。障害福祉制度の居宅介護・重度訪問介護の指定を受けている事業所は、介護保険制度の共生型訪問介護の指定が受けられます。同様に障害福祉制度で生活介護や自立訓練などの指定、短期入所、の指定を受けている事業所は、それぞれ介護保険制度の共生型通所介護、共生型短期入所生活介護の事業所の指定が受けられます。

逆に、介護保険のこの3種類の事業所は、障害福祉制度側の人員基準等が緩和され、それぞれ障害福祉制度の共生型居宅介護・共生型重度訪問介護、共生型生活介護など、そして共生型短期入所の指定を受けることができ、障害者等の利用が可能となります。

中重度の人への対応が評価されます

訪問看護では、ターミナルケアの実施数が多い訪問看護事業所を評価する新しい区分が設けられます。要件は、ターミナルケア加算の算定者が年5人以上あることです。

認知症対応型共同生活介護(グループホーム)では、医療連携体制加算に看護体制が手厚い医療連携体制加算Ⅱと医療連携体制加算Ⅲが新設されました。Ⅱは看護職員を、Ⅲは看護師を常勤換算で1人以上配置し、たんの吸引などの医療的ケアを提供している実績が必要です。

居宅介護支援では、末期がんの利用者を担当した場合にターミナルケアマネジメント加算が新設されます。

地域包括ケアシステムの深化

1,新オレンジプランの推進が努力義務に

新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)は2012年に発表されたオレンジプラン(認知症施策推進5か年戦略)を見直す形で2015年にまとめられた施策です。

厚生労働省と11の関係省庁が共同で策定した施策ですが、介護保険法等で考え方や施策の推進が明確化されていなかったことから、今回の改正でそれらが法定化され、政府・自治体による推進などが努力義務となりました。

 新オレンジプランとは?

出典元:厚生労働省

2017年に数値目標などが見直しされました。その基本的考えは認知症の人の意思が尊重されること・住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けることのできる社会を実現することに集約されます。特に「認知症の理解を深めるための知識の普及・開発」「認知症の人の介護者への支援の推進」「認知症の人とその家族の意向の尊重への配慮」の3点が政府・自治体の責務とされました。

認知症高齢者の増加が予測

こうした施策の推進が急がれる背景として、認知症高齢者の増加が予測されている点があります。たとえば、九州大学の16年の研究では、12年のわが国の認知症高齢者は約462万人と推測されていますが、25年には700万人程度に急増すると見込まれており、その後も増加が続くと予測されているのです。

出典元:厚生労働省(新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略 )~知症高齢者等にやさしい地域づくりにむけて~の概要)

2,適切なケアマネジメント実施を促すことに

居宅介護支援事業者の見直し

ケアマネジャー(介護支援専門員)の資質向上は継続的に検討されております。適切なケアマネジメント手法(特に高齢者に起こりやすい疾病を抱えて退院する際の手法)を政府が明示してその普及・推進を図ることになりました。

また、ケアマネジメントの公正さ・中立性にも課題が示されています。この対応策として、利用者・家族に複数の介護サービス事業所の紹介を求めることができる旨を説明する義務が明確化されました。加えて管理者の資格要件を主任介護支援専門員とすることになりました。(2021年4月~)さらに、訪問介護(生活援助)の月あたりの回数が一定数を超えるケアプランは、保険者へ届け出ることも義務化されました。

地域包括支援センターの見直し

地域包括支援センターの機能のひとつとして「ケアマネジャー支援」があります。今後は、その機能をマネジメントの環境整備のために住民や介護サービス事業所を対象とした取り組みなど「地域全体をターゲット」として拡げていく規定が加わります。

また、業務内容全般に関する自己評価とともに、各センターの業務内容の評価を行うことも義務付けられます。そして、介護離職防止のための対応として、休日・祝日の開所の検討や地域に出向いた相談会を実施する活動なども求められることになりました。

第7次医療計画で大きな見直し

医療計画とは

医療計画は医療法に基づいて都道府県が5年ごとに策定するもので、1988年に第1次医療計画の計画期間が始まりました。当初からの最大の目的は、二次医療圏ごとに必要な病床数(基準病床数)を定めることにあり、近年は医療機関の連携体制の構築や医師不足への対策なども盛り込まれています。医療基盤の整備というよりも、病床数の無規制な増加の防止や、病床の地域偏在の解消、医療機関間の役割分担、医療費の適正化・効率化を主眼とした行政計画といってよいでしょう。

地域医療構想調整会議

2018年に比較的大きな見直しが行われました。二次医療圏ごとの医療提供体制を共通の指標で客観的に比較するとともに、地域医療構想を推進するための地域医療構想調整会議での病床機能再編に向けた議論が進められることが最大のポイントです。さらに、医療計画の責任主体である都道府県と介護保険事業計画・保険者である市町村との協議の場の設置、ロコモティブ・シンドローム(骨・関節・筋肉などの運動器の衰えなどによる生活上の障害)やフレイル(健康な状態と生活にサポートが必要な介護状態の中間)に対して、医療と介護の両面からサポートする方策を検討することなとも計画化されます。これらはいずれも介護サービスのあり方とも大きく関係するものばかりです。第7次以降の医療計画は、医療の提供システムに関する計画という意味合いを超え、医療・介護の総合的な提供システムを構築していくために介護保険事業(支援)計画と整合性を高めるという趣旨が強くなります。今後の医療・介護の一体的な改革のバックボーンとなるものとして、その動向を注目すべきでしょう。

まとめ

医療・介護の制度は、この地域包括ケアシステムをキーワードとした改革が今後一層進むでしょう。とりわけ、軽度者を中心に、公的な支援や社会保険による支援は住民の活動や一般企業のサービスへ、医療はできるだけ介護へ移行するといった動きは加速し、職種間連携・地域づくりの必要性はさらに強調されていくものと思われます。